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浦和地方裁判所 昭和40年(ワ)461号 判決

原告 新井唯弘

被告 藤原製菓株式会社

右訴訟代理人弁護士 坂巻幸次

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告は、「被告は原告に対し、金一五三、九六九円および内金一三七、〇九四円に対する昭和四〇年一月二一日から、内金一六、八七五円に対する同年四月一一日からそれぞれ完済にいたるまで年六分の割合による金員を支払え、訴訟費用は被告の負担とする」との判決ならびに仮執行の宣言を求め、請求の原因として

一、訴外有限会社平間製菓(以下単に訴外会社という)は被告に対し菓子商品を(一)昭和四〇年一月一一日、代金一三七、〇九四円、その支払期日同年同月二〇日、(二)同年三月三一日、代金一六、八七五円、その支払期日同年四月一〇日の約で売り渡し各同額の売掛代金請求債権を有していた。

二、原告は、昭和四〇年九月三〇日訴外会社より同会社が被告に対して有する右債権を譲り受けた。

三、よって原告は、被告に対し、右債権合計一五三、九六九円および(一)の金一三七、〇九四円に対する支払期日の翌日である昭和四〇年一月二一日から、(二)の金一六、八七五円に対する支払期日の翌日である同年四月一一日からそれぞれ完済にいたるまで商法所定の年六分の遅延損害金の支払を求める。

四、被告の訴外会社の原告に対する債権譲渡は訴訟行為をなさしむることを主たる目的としてなされた信託譲渡であるとの主張は否認する

と述べた。

被告訴訟代理人は主文同旨の判決を求め、請求原因事実に対する答弁として

一、請求原因第一項の事実中、金額および代金支払期日の点を除きその余は認める。その主張の(一)の代金は金一一八、二〇〇円その支払期日は同年三月一一日、同(二)の代金は金一六、八七五円、その支払期日は同年五月三一日であって、代金合計は金一三五、〇七五円である。

二、請求原因第二項の債権譲渡の事実は不知。

抗弁として

一、被告は、原告主張の債権譲渡について通知を受けておらず、被告においてそれを承諾したこともないから、原告主張の債権譲受けをもって被告に対抗し得ない。

二、また、仮りに、同訴外会社より原告に債権譲渡がなされたとしても、右行為は訴外会社が原告に対し訴訟行為をなさしむることを主たる目的としてなされた信託譲渡であり無効である。

三、仮りに、右譲渡を被告に主張しうるとしても、被告は同訴外会社と原告主張の本件取引を含め昭和三九年一二月二五日から昭和四〇年四月二八日までの間継続的に取引し、その買掛金は、合計金四四五、五三九円のところ、すでに本件取引の分をも含め金四一一、二八五円を弁済し、残債務は僅か金三四、二五四円に過ぎない。したがって被告は同債務額の範囲内においてしか支払義務はない。と述べた。〈以下省略〉。

理由

一、〈省略〉

二、ところで、被告は右債権の額を争うほか、右債権譲渡は訴訟行為をなさしめることを主たる目的としてなされた信託譲渡であって無効である旨主張するので右債権額の点はさておき、この点につき判断する。

証人平間啓四郎の証言、原告本人および被告会社代表者藤原健之助(第一、二回)の各尋問の結果ならびに弁論の全趣旨を綜合すれば次の事実が認められる。すなわち、

(一)  原告は、昭和四〇年一〇月一三日夜はじめて被告会社代表者藤原健之助方を訪れたのであるが、その除、前記内容証明郵便をも示し、同人に対し「訴外会社より取立を依頼されて売掛金の請求に来た旨を述べ、その支払方を請求していること。これに対して被告会社代表者は債権額が多すぎることを理由に支払を拒絶し、原告も、訴外会社によく確めてみると答えて帰っていること。

(二)  そして、翌一四日被告会社代表者が右訴外会社に電話で、何故に原告に取立を依頼したか問いただしたところ、同会社代表者平間啓四郎は「過去において原告に債権の取立を頼んだことがあり、そのとき取立手数料が安かったし原告が取立ててやるといわれるので原告の方が被告方に距離的に近いから頼んだけれども、もし、原告に支払うのが嫌なら直接私方(訴外会社)に支払ってくれてもよいなお金額が違うなら改めて請求書を送る」旨答えていること。

(三)  しかるに、原告も同訴外会社代表者もその後、被告と金額に関し何らの交渉もすることなく翌々日である昭和四〇年一〇月一五日、いきなり原告が大宮簡易裁判所に本件支払命令の申立をし本件訴訟行為に及んでいること。

(四)  原告が、本件債権を譲り受けるに至った事情として、原告本人は「約一年位前の昭和三九年一〇月頃に、いわゆるバッタ売りする商品(商人がさしせまった金融資金を得るために、手持商品を通常価格より相当低廉な値段で換金処分する商品をいう。原告本人の供述によれば原告のいう流れもの商品とほぼ同意)が出た場合、同訴外会社より原告の方にまわしてくれるように頼み、その必要資金として、現金で約一五、六万円を、同訴外会社より同社振出の手形とか借用証書等をとらず、また、その商品がいつ入手しうることになっていたか、右金員は何時返済するか、その利息はどう定めるか等もせず、ただ口約束だけで前記金員を渡していたので、本件債権の譲渡を受けた」旨供述するに対し、証人平間啓四郎は「昭和四〇年九、一〇月頃自分の手形を落すために原告より一五万円余を借りていたので、本件債権を譲渡した」旨証言し、前掲被告代表者の供述と相まち、本件債権譲渡の原因関係に頗る疑問の点が看取せられること。

(五)  被告代表者が昭和四〇年一〇月一〇日頃原告の事務所に電話した際、応答に出た者が原告の職業は、取り立て業である旨答えていること。

(六)  原告は株式会社としての登記をしていないにかかわらず換金産業株式会社代表取締役という肩書を使って昭和三四、五年以来いわゆるバッタ売する商品を他の商人にあっせんすることを主たる業とするが、今までにも他人の債権譲渡を受けたり、いわゆる流れものの不動産を取って、その上の負担を自ら整理して他に転売したりなどして相当の利益を挙げてきている者であること。

(七)  原告は、弁護士事務所に勤めていたこともあり、現在までに少くとも一〇件余は自ら訴訟を遂行した経験があり、訴訟追行には至って習熟していること。

以上認定のこれらの事実を綜合勘案するとき、本件債権の譲り受けは原告が訴外会社より訴訟行為をなすことを主たる目的として取り立てのため信託的に譲り受けたものと推認するのが相当である。そうすると本件債権の額の認定をまつまでもなく、訴外会社より原告に対する本件債権譲渡行為自体、信託法第一一条の法意に徴し無効なものといわざるをえない。

三、さすれば、原告の被告に対する本訴請求は、その余の判断をするまでもなく、理由がないからこれを棄却するものとし〈省略〉主文のとおり判決する。

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